核禁止条約の実効性と日本国参加の是非について

令和3年1月22日、核兵器の開発・使用・保有を禁止する“核兵器禁止条約”が発効しました。しかし、この条約には全ての核保有国は加入しておらず、唯一の被爆国である日本も加入していません。今回は、この条約の実効性や日本は加入すべきなのかについてお話ししていこうと思います。

 

1.核兵器禁止条約とは

 核兵器禁止条約とは、その名の通り核兵器の使用・保有・開発を例外なく禁止する条約です。これまでも核軍縮は進められてきていますが、これまでの国際法(条約)はあくまで新規の開発禁止や実験禁止に重きが置かれており、現保有国(主に第二次世界大戦戦勝国)の核兵器保有そのものは認められています。この条約の発効には2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が大きな役割を果たしました。ICANは、スイスのジュネーブに拠点を置く組織で、世界各国のNGOなどの団体が集まって構成されています。そして、ICANは国家機関によるキャンペーンではありませんでしたが、様々な国の政府や国民に核兵器根絶の必要性を訴え続けた結果、国際法規である条約となって実を結んだわけであります。令和3年1月22日現在、100を超える国や地域が条約に署名・批准を進めており、一見すると核のない世界に前進したと感じられます。しかし、肝心の核保有国は全て不参加、先進国である日本や多くのNATO加盟国も条約参加に否定的な立場をとっています

 

2.日本の早期参加の是非

 確かに、核兵器禁止条約は理想とする世界の実現に向けた画期的な条約であるといえ、唯一の被爆国である日本も参加する方がいいように思えます。しかし、日本の安全保障政策を考えたとき、核兵器禁止条約は理想的すぎて現実的ではないのです。「日本は核兵器を持たないし持てない国だから条約に参加しても問題ない」と思われる方もいるかもしれませんが、日本は同盟国で核保有国あるアメリカの“核の傘”によって守られています。また、多くのNATO加盟国や韓国が条約参加に後ろ向きなのも、それらの国がアメリカの核の傘に入っているからです。そのため、もし日本が核兵器禁止条約に参加してしまった場合、アメリカとの関係が悪化するリスクもある上、安全保障の協力を続けるにしても“例外なく核兵器を禁止する”という本条約の趣旨を守るなら「核の傘」を念頭にした日本の安全保障政策を根幹から見直す必要が出てきます。ただでさえ、日本の近隣諸国には中国・ロシアといった巨大な核保有国に囲まれている上、北朝鮮という従来の国際法すら無視して核兵器を作り他国を脅す異質な国家もあります。そして、これらの国とアメリカと同程度の友好関係を結ぶことはまず不可能であり、本条約に早期加入をしないことは極めて合理的で賢い判断だと思います。ちなみに「万が一日本が武力攻撃されてもアメリカが国際的な批判を覚悟で日本のために核兵器を使うわけがない」という人がいますが、武力衝突になれば少しでも核兵器が使用されるリスクがあると侵略国に思わせることが武力衝突回避につながるため、今のところ日本もアメリカも中国も本気で核戦争をしようとは思っていないと考えられます。

 

3.なぜ核兵器がなくならないのか

 では何故、核保有国ですら核戦争をしようと思っていないのに一向に核根絶が進まないのか話していこうと思います。不謹慎かもしれませんが核兵器の意義を言いますと、それは「抑止力」につきると思います。というのも、各国は核兵器の威力を十分に認識しているため、核兵器を使って侵略しようとは考えていないはずです(ただし北朝鮮はどう考えているか分からない)。ただ、核兵器の強大な威力ゆえに全ての国が永久かつ完全に手放してしまわない限りは、世界のパワーバランスが崩れてしまうリスクを否定できないため簡単に核放棄しないわけであります。簡単な例を挙げると、世界にA~Dの核保有国があってA~Cだけが条約を結び核兵器を根絶した場合、未だに核兵器を持っているD国が極端に力を持ちすぎることになるのです。太平洋戦争の際、核兵器が開発されてたてでしたが75年前の技術で作られた原子爆弾でさえ、たった1発で都市全体を一瞬で焼け野原にしました。核兵器分野においても、科学技術は進歩しているため当然現在の核兵器は使用すればより強大な威力があります(核兵器があるだけで大国すらも脅せるため北朝鮮は躍起になって開発している)。そのような悪魔的兵器であるため、現保有国及びその軍事同盟国は根絶したくても具体的な話になると及び腰になるわけであります。仮に、全ての国家が保有も含め例外なく禁止したとしても、開発技術は既にあるわけですから一国でも裏切ればその国は全世界を支配できると言っても過言ではありません。ある意味、絶えず裏切りを警戒して国家同士が疑心暗鬼に陥れば戦争リスクが高くなり平和が遠のくという矛盾が生じます。また、この世界では国家でもないテロリストが勢力を拡大しています。万が一テロリストが核兵器を持ったときにはー彼らは破壊活動しかしないのでーと考えると恐ろしくなります。

 

4.まとめ

 とはいえ、核兵器は人類を脅かす兵器であり“核なき世界”の理想を追い求めなければなりません。核兵器の開発という、自らの種を自らで絶滅させるような兵器を作ったのは人類最大の失敗であり愚かと言わざるを得ませんが、人類には他の生物にはない高い理性があります。時間はかかるとは思いますが、日本は唯一の被爆国として核兵器の恐ろしさを全世界に訴え、同じ志を持つ他国や様々な国の民間人と積極的に協力して何としてでも核兵器根絶を目指す取り組みをしなければいけません。ただ、安直に実効性の乏しい条約に署名して批准するような行為は単なるパフォーマンスであり日本の平和を崩すリスクのあるため避けなければならないと結論付けたいと思います。長文となりましたが、最後まで閲覧いただきありがとうございました。

 

※本記事を作成するにあたって参考にさせていただいた文献・サイト

www.unic.or.jp

www3.nhk.or.jp