地上波放送のネット同時配信~テレビの現状とNHKの在り方について~

近年、インターネットの普及に伴い若者を中心に“テレビ離れ”が進んできています。そこで注目されているのが、テレビ放送のインターネット同時配信です。そして、2019年5月には放送法が改正され、テレビ局はネット同時配信することが可能になりました。今回は、同時配信の課題とテレビの現状について考察していきます。

 

1、ネット同時配信の現状

 元々、ネット同時配信に前向きな姿勢を見せ放送法を所管する総務省にも同時配信解禁を訴えていたのはNHKでありました。そのため、解禁後に最も早く同時配信サービスを始めたのはNHKで、民放テレビ局では日本テレビのみがネット配信サービスアプリ「TVer」にてサービスを実施しています。他の大手テレビ局でも、ネット配信サービス開始に向けて検討を行っていますが、権利関係や導入に際するシステム構築費などがネックになってすぐには開始されないのだと思われます。

 

2,テレビの現状

 そもそも、ネット同時配信を開始したところで需要があるのかについて考察していきます。同時配信をした場合、視聴者のターゲットはテレビよりスマートフォンを見る機会が多い若者世代になります。実際、NHKの放送文化研究所は2010年に「16~29歳では「テレビ」の位置づけが低下している一方で,「インターネット」の位置づけが相対的に高くなっている」と指摘しています。また、総務省が行った調査でも若者・現役世代のテレビ接触率が減少していることが分かります。そのため、テレビ業界の中で「スマートフォン等でネットを通じて地上波放送と同時に配信すればテレビへの回帰が起きる」という意見が上がったのだと思われます。しかし私は、若者世代のテレビに対するイメージそのものが良くないと考えます。確かに、多くの人はインターネットの掲示板にある根拠に乏しい主張よりテレビの方が信用できるとは思っているでしょうし、実際その通りであります。ただ、SNSで「マスゴミ」といった既存のメディア批判する言葉があるのも事実であるし、インターネットの調査になりますが「ジャーナリスト」を信頼できないと答える人も多いのも事実であります。実際、ワイドショーや報道番組を見て“芸能人の不倫の話題なんてどうでもいい”や“ずっと政権批判をしているな”などと不満を持った人も一定数いるでしょう。

 

3,同時配信に需要はあるのか?

 2,ではメディア批判についてお話ししましたが、それでもテレビを情報源にする人は多くいると思います。もちろん、若者・現役世代でスマホ・パソコンに接する時間が増えたのは事実ですが、最近でもテレビから話題になったドラマ・アニメがありますし、テレビで問題提起されたことが国民の間で話題になって政策を動かしたこともあります(最近では、緊急事態宣言の発令など)。ただ、同時配信に需要があるのかは微妙なところであります。例えば、ニュースであってもYahoo!YouTubeを開けばしかるべき報道機関がタイムリーに記事や動画を配信していますし、ドラマやアニメも動画配信サービスで地上波放送の数日後には配信されます。また、現代人は男女ともに夜まで仕事をしていることが多いので、自宅で地上波を見るよりも後から録画や配信で見る方も増えてきているように感じます。インターネット調査ではありますが2019年に株式会社携帯市場が行った調査によると、ワンセグ機能がついた携帯電話を持つ人で実際に利用する人は26%となっており、ワンセグというかたちで、いつでもテレビを見られる携帯電話を持っていても利用率はあまり芳しくありません。恐らくそうしたデータが事実としてあるため、未だに多くのテレビ局が膨大なお金を投じてまで同時配信サービスを開始しないのだと思います。

 

4,NHKは同時配信を推進すべきか

 同時配信に最も力を入れているのはNHKでありますが、私はNHKが多額の投資をしてまで同時配信を広げるべきではないと考えます。なぜなら、NHKは民放テレビ局とは違い受信料によって運営される報道機関だからです。そして、NHK受信料は「いかなる勢力にも左右されない公平・公正な情報を伝える」という公益目的で、国民から事実上強制的に徴収することができます。つまり極端に言うと、NHKは消費者の需要にかかわらず多額の収益が保障されています。もし、実質的に公営企業のNHKが民放テレビ局に先んじて同時配信サービスを拡大した場合、純粋な民間企業である民放テレビ局を圧迫しかねません。その上、受信料は実質強制徴収であるため、徴収の目的である「公益に資する報道」に拘るべきであり、先進的なサービスは国民の大多数が求めない限りは実施せず、受信料を下げる努力をするべきだと思います。また、今回のテーマとは離れてしまいますが、最近のNHKは民放と同じく視聴率ばかりを気にして公益に資する報道の視点が欠けているようにも思えます。そうであるならば、いっそのことNHKスクランブル放送化にして、中立的報道の実現は民放テレビ局に譲り(民放にも正確で中立的な放送を求める放送法の適用対象である)、民放だけでカバーしきれない範囲の災害時の被害・避難情報の提供は政府の広報機能の強化で対応すべきと考えます。

NHKはインターネット活用事業を無制限にできるわけでなく、受信料収入の2.5%以内と定められています。

 

5,さいごに

 少し話が逸れましたが、まとめとして言いたいことは、同時配信してもテレビ回帰は進まないと考えます。理由としては、前述したようにインターネットでも既存のメディアと同程度の正確な情報を得られるようになったこと、また、若者世代を中心に娯楽ツールがテレビから有料動画配信サービスやYouTubeなどに移り変わっていることがあげられます。ただ現在においても、テレビはどの世代にも強い影響を与えており相対的に正確な情報が簡単に入手できることも事実なので、消費者の需要分析に強い民放のテレビ局が主導して、同時配信、ひいては将来のテレビの在り方を早急に検討すべきだと思います。最後まで閲覧していただきありがとうございました。

 

※記事作成にあたり参考にさせていただいた文献・サイト

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20190910018.pdf (NHKによる常時同時配信の実施  参議院常任委員会調査室・特別調査室)

 

若者はテレビをどう位置づけているのか | 世論調査 - 放送に関する世論調査 | NHK放送文化研究所

 

携帯市場、スマホ・ガラケーの“ワンセグ”利用アンケート調査 ワンセグ利用者は3割未満 ワンセグ受信料が発生するなら買い替え意向6割、世代別で60代のみ4割 – ニュース 株式会社 携帯市場

 

https://www.soumu.go.jp/main_content/000384298.pdf (テレビ視聴の構造変化と今後の展望 総務省放送を巡る諸課題に関する検討会 説明資料)


www.nhk.or.jp