官僚の働き方改革について ~イメージとかけ離れた公務員の働き方とは~

今回のテーマは、官僚の働き方改革について扱っていこうと思います。ここ最近、行政のデジタル化推進という言葉をよく耳にしますが、それと関連して現役官僚の方や元官僚の方々がSNS等で官僚の仕事を効率化して働き方改革を推進すべきという声も聞こえてくるようになりました。本記事では、“なぜ官僚の働き方改革が叫ばれているのか”についてこれから官僚(公務員)を目指されている方向けに書くと同時に、官僚の働き方などというテーマが一般国民にどう関係するのかについて書いていこうと思います。

 

1.対象と現状

 ひとくくりに官僚などと言っていますが、正確に言うと国家公務員と称される公務員は全て官僚となります。ですが今回は、中央省庁で働く国家公務員、とりわけ国家総合職採用試験で採用された公務員(世間一般に言うキャリア官僚)についての働き方改革について話していきます。もちろん、国家一般職採用の職員として中央省庁で勤務される方々も総合職採用の職員と同様の働き方をしていることも多いのでこれから書くことに当てはまると思います。さて、こうした中央省庁で働く国家公務員の業務については後ほど書きますが、簡単に言うと国に関わる政策を作り、法や制度を立案することです。わかりやすい例を挙げると、GOTOトラベルキャンペーンが挙げられると思います。このキャンペーンを継続するか否かといった判断はもちろん我々の代表者たる大臣や首相がしますが、どのような制度にするかやどのように予算を振り分けるのかといった実務は中央省庁で働く国家公務員が行います。それ以外にも、年金や生活保護といった制度の立案もそうした公務員が行っているし、日々の国会での大臣や首相の答弁もそうした公務員が作っているので、今に限らず昔から多忙な職業だといえます。そして官僚を目指す学生なども、ある程度多忙なのは覚悟の上で「この国をよくするために頑張りたい」という熱意を持って志望するわけであります。ではなぜ、今になって働き方改革が必要なのか書いていきたいと思います。

 

2.官僚とは?

 前章では、官僚の仕事について簡単に説明しましたが、ここではより詳細にそして官僚が多忙にせしめている原因は何かについて書いていこうと思います。まず、昔の官僚の働き方と今の官僚の働き方の違いについて書いていきたいと思います。その違いが如実に表れているのが、官僚主導から政治主導になったことです。もちろん政治主導といっても、首相や大臣が担当する全ての行政分野について完璧に把握しているわけではありませんから、官僚が細かな制度設計やその制度を導入することで利益を受ける人とそうでない人との公平性の調整をすることには変わりありません。ただ、政治主導ということは国会議員が各省庁の行う政策・法や制度設計に口を出すようになり、官僚はそれら国会議員に説明をして場合によってはその制度設計などの仕事を一からやり直す作業が発生するようになりました。ここ最近の例を挙げてみるなら、GOTOトラベルキャンペーンで東京都や大阪府が一時対象外とする件について「観光庁の担当者が今日も徹夜だと言っている」という報道が出されたことが挙げられます。もちろん、我々の代表者である国会議員が国民の声に耳を傾け、実際に国民にサービスを提供する行政府に口出しするのは民主主義的には望ましく、官僚が国会議員に説明して場合によっては一から制度を変えるというのは必要なことであります。しかしながら、現役官僚の声を聞いていると「国会前日の17時を過ぎても質問者から質問通告が来ない」や「野党合同ヒアリングが怖い」という意見を耳にします。官僚の仕事のひとつは、大臣が国会に立つ日までに、大臣に質問してくる国会議員への答弁を作成して大臣の許可をもらうことなので、その議員からの質問通告の内容が明らかになり答弁書を作成しないと帰宅することはできません。

※質問通告⇒国会での議員の質問と大臣の答弁はアドリブではできないので、質問する内容に関係する省庁に事前にどのような質問内容かが通告される。

 野党合同ヒアリング⇒問題となっている政策や制度に関して野党議員が担当者(主に課長級)にヒアリングを行うこと。

 

3.なぜ官僚の働き方改革が必要なのか?

 ここまで見ていただいた読者の中には「忙しいとは思ったが、1.に書かれているように志望する学生は覚悟の上なのだからいいのではないか」という意見があると考えられるので、なぜ官僚の働き方改革が必要なのかについて書いていきます。

 まず1つ目は官僚自身のためです。官僚は、省庁や部署にもよりますが国会会期中には始業の2時間くらい前に出勤し、夜中の2時3時に帰るのが常です。そして、国会の会期は臨時国会も合わせると約8ヶ月程度開かれます。人事院の平均残業時間のデータをみると他と比較して残業時間が多くありませんが、実際の官僚の声や国会会期中の霞ヶ関にある中央省庁の建物から漏れ出る照明を見れば、どれほど少なく見積もっても月残業時間は3桁になっていると思われます。月の残業時間が100時間を超えれば心身ともに悪影響を及ぼすことは医学的にも証明されています。こうした状況においては、どんなに健康な官僚でも体調を崩してしまいます。また、長時間労働が続けば、出産・育児をする女性職員もどんどん退職していってしまい、女性活躍社会の実現という現在の日本政府の方針にも反してしまいます。

 そして2つ目は国民のためです。先述しているとおり我が国の主要な制度・法律の立案とその後の改善提案は官僚が行っています。これは、議院内閣制である以上は仕方ないし、国会議員は国民の代表者であって行政のスペシャリストではないので仕方がないことです。なので、官僚なしには国民へのサービスは作れないとも言えます。そして現在、いわゆるキャリア官僚を目指す学生は減少しており、一般職でも中央省庁勤務は敬遠されるようになってきました。特に重要政策の立案を担当するキャリア官僚に優秀な人材が集まらなければ政策の質も落ちてしまいます。政策の質が落ちれば、本当に公助が必要な国民を助けることはできません。この意味において、学生が官僚志望を敬遠する大きな理由となっている長時間労働の是正することが必要です。また、長時間労働を是正できれば税金でまかなわれる官僚の残業代も減らすことができます。さすれば、官僚を目指す優秀な学生は増えることでしょう。官僚の仕事は、給料は大手企業に比べて良くないとしても日本という国を動かせるやりがいのある仕事であるはずですから。

 

4.ではどのように改善していくか

 やはり国会議員の意識を変える必要があります。なぜなら、政治主導である以上は行政の専門家である官僚と国民の代表者として国の方針を決める国会議員の関係は切っても切り離せないからです。追記すると、政治主導は民主主義として理想であるためこの原則は残すべきです。具体的に国会議員の意識を変えるというのは、例えば先述した質問通告を余裕を持って通告するようにすると国会においてルールを決めるべきです。質問通告が国会の数日前にきていれば余裕を持って対応することができます。余裕を持って対応できれば、無駄な待機時間が減る上、どのような答弁にするのか時間をかけて検討できるので仕事のパフォーマンスも上がると思います。また、野党合同ヒアリングの出席者も課長級の職員でなく、政務官副大臣など政治職の役職に立つ者がするべきです。先述の通り、このヒアリングは問題となっている制度などについて野党議員が省庁側に問いただすものです。現在、このヒアリングには担当課長などが矢面に立たされます。しかし考えてみると、民間企業で何か問題が生じてメディアや消費者の前に立って説明するのは現場の責任者ではなく、社長や取締役などの企業全体の責任者です。こうしたことからも、現在の野党合同ヒアリングの異常性がうかがえます。最後にペーパーレスも推進すべきです。国会中継や野党合同ヒアリングのテレビ報道を見ていると紙の書類の多さが目立ちます。こうした書類は、いちいち官僚の手で刷られており貴重な業務時間を割きます。こうした書類のほとんどは電子化でき、電子化されれば印刷作業はなくなり、誰かに渡す場合でも電子メールやクラウドで共有でき効率化を図れます。これを言うと、“省庁の幹部や国会議員の中にはITに弱い人がいる”という者がいますが、どのような仕事であれ効率化のために努力をするのは社会で働く人間の当然の責務です。それができないのであれば、さっさとその業界を引退するのがその人のためでも、組織のためでも、社会のためでもあります。

 

5.まとめ

 これまで指摘してきた以外にも効率化できる業務もあると思います。働き方改革をするには、まずは官僚を動かす国会議員が意識を変え、実際に現場で働く官僚の声を聞きながら慣習(必要であれば法律)を変えていく必要があると思います。そして、主権者たる我々国民も官僚の質が行政サービスの質につながるのだと考え、関心を持つべきだと考えます。ちなみに「公務員の数は減らせ、福祉を充実させろ」という方々がいますが、この2つは二律背反であります。昔マスコミが「日本は公務員数が多い」などとお得意のデマを流していましたが、日本の人口あたりの公務員数が主要先進国の中で最も少ないことは学術的にも有名な話です。今回も長文となってしまいましたが、ここまで読んでいただいた読者の方に感謝を示し、終わりたいと思います。

 

参考文献

危機に直面する霞ヶ関 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト 

これは、衆議院議員で現行政改革担当大臣の河野太郎氏のブログです。国会議員の視点から霞が関の官僚を目指す学生が少なくなっていることを危惧しています。

 

Amazon.co.jp: ブラック霞が関(新潮新書) eBook: 千正康裕: Kindleストア

この本は、元厚生労働省のキャリア官僚である千正氏が自身の経験などを基に官僚の働き方改革の必要性や昔と今で官僚の仕事がどう変わったのかが書かれています。官僚の仕事の本質や民間とは違う特殊な働き方を理解したい方にオススメの本です。

 

眠らない官僚|NHK NEWS WEB

NHKの官僚の働き方についての報道です。最近になってようやくマスコミも官僚の働き方について問題意識を持ってきたという印象があります。

 

http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou021/hou21.pdf

内閣府の経済社会総合研究所が出したものです。これをみると、過去の公務員叩きがいかに的を射ないものであったか知ることができます。